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3-16 バレンタインのプレゼント 1

last update Last Updated: 2025-05-12 09:46:12
——2月14日

 今朝の千尋は渚よりも早起きをして朝食とお弁当の準備をしている。お弁当はサンドイッチ、朝食は野菜スープにボイルしたウィンナーにスクランブルエッグとスコーン。準備していると渚が台所にやってきた。

「おはよう千尋。まさかお弁当と朝ご飯の準備してくれてたの?」

渚が目を丸くする。

「うん。たまには私が用意しようと思って。丁度良かった、渚君に渡しておきたい物があるんだ」

千尋は隣の部屋から紙袋を持って来て渚に手渡した。

「これ、バレンタインのプレゼント。良かったら受け取って?」

「え? 僕に?」

紙袋の中身を取り出すと、そこには紺色の手袋が入っていた

「この手袋ってもしかして……手作り?」

「うん、気に入ってもらえるといいんだけど」

千尋が照れたように言う。

「気に入るも何も、僕の一生の宝物だよ! ありがとう、大事にするよ!」

渚は手袋を握りしめて嬉しそうに笑った。

「大事にしてもらえるのは嬉しいけど、ちゃんと使ってね?」

「うん、早速今日から使わせてもらうよ」

渚は手袋をはめてみた。

「すごく暖かいね。僕もホワイトデーに何か千尋にプレゼントさせてね?」

「その気持ちだけで、いいよ。それより朝ご飯食べない?」

「うん、そうだね」

「「いただきます」」

いつもの朝食が始まった。

「うん、このスコーンすごく美味しいね。どうしたの?」

渚がスコーンを食べながら尋ねた。

「これはね、前に仕事が休みだった時に生地を作って冷凍しておいたの。良かった、渚君の口にあったようで」

「千尋の作る料理は何でも美味しいよ。今日のお弁当楽しみにしてるね」

「うん、期待に添えられると良いけど」

 食後のコーヒーを飲みながら千尋が言った。

「あのね、渚君にお願いしたいことがあるの」

「何? お願いって?」

「これなんだけど」

千尋は紙バッグを渚に渡した。

「これは何?」

「手作りチョコが入ってるから私の代わりにリハビリステーションのスタッフの人達に渡してきてくれる? あ、勿論渚君の分もあるからね」

「うん、大丈夫。ちゃんと渡してくるよ」

渚は紙袋を受け取るとニッコリ笑った——

****

「はあ~」

患者のマッサージを終えた里中がため息をついた。頭の中からは、病院のベッドで眠っている渚の顔が離れられない。あの日はあまりのショックに自分がどうやって家に帰ってきたのかも覚えていない位だった
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  • 君が目覚めるまではそばにいさせて   3-15 話し合い 3

     後に残された二人は暫く黙っていたが、やがて渚が口を開いた。「今日はありがとう、里中さん」「え? 何が?」「里中さんがいてくれなかったら、見逃してもらえなかった」「間宮、お前……本当に間宮なのか?」「うん。僕は間宮渚だよ。間違いなくね」渚は寂しそうに笑った。「そっか……お前がそう言うなら、俺は信じるよ」「ありがとう」「ところで、これからお前はどうするんだ?」「実はね、今日、本当は仕事だったんだ。けれど急に祐樹に呼び出されたから臨時で休みを貰ってここに来たんだよ。でも千尋に心配かけさせたくなかったから、今日は仕事だって嘘ついてきたんだ。まだ家に帰る訳にはいかないし、何処かで時間潰してから帰るよ」「そっか……分かった。じゃあ俺も行くよ」渚も帰ろうと荷物を持った時に渚が声をかけてきた。「そうだ、里中さん。サボテン買いに行くんですよね?」「え? あ、ああ。そうだな」(やべ~サボテン買いにきたって話すっかり忘れてた!)「僕にも今度お勧めのサボテンあったら教えてくださいね?」渚は笑顔で言った。「お、おう! そうだな」里中は引きつった笑いを浮かべるのだった。**** 渚と一緒に店を出た里中であったが、やはり渚のことが気になって仕方がない。(間宮が家に帰るまで、ちょっと後をつけさせて貰うかな?)里中はどうしても渚を疑う祐樹のことが頭から離れずにいた。今日、渚の後をつければ何か情報が得られるかもしれないのではと考えたのである。  前を歩く渚にバレないように里中は慎重に尾行を始めた。渚は駅に向かって歩いている。そして駅に着くとそのまま電子マネーで改札を通ってホームで電車を待つ。「やっぱり、ただ家に帰るだけなのか……?」柱の陰から渚の様子を伺う里中。やがてホームに電車が到着し、ドアが開くと渚は乗り込む。里中も慌てて二つ隣の入り口から乗り込んだ。そして里中の予想通り、渚は地元駅で降りたのである。「やっぱりこのまま帰るのか……?」しかし予想に反して、渚はあるバス停に向かって歩き出してた。「え? 間宮、一体どこへいくつもりなんだ?」里中も人混みに紛れながら渚が並んだバス停に一緒に並んだ。バスはかなりの長い列が出来ている。(一体、このバスは何処へ行くバスだ?) バスは意外に早くやってきた。バス停に並んでいた里中は何処に行くバ

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